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全固体電池電解質を保護するコート層の設計指針を確立 ~長寿命?高性能な全固体電池の実現に貢献~

【本学研究者情報】

多元物質科学研究所 助教 木村勇太
多元物質科学研究所 教授 雨澤浩史

研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 次世代型蓄電池として期待されている全固体リチウムイオン電池(SSB) (1)の電極/固体電解質界面の保護層(コート層)に求められる特性や厚みを定量的に明らかにしました。
  • SSBの各構成要素を考慮した最適なコート層設計を可能とする計算フレームワークを開発しました。
  • 充放電時に電極と固体電解質の界面で起こる固体電解質の分解を防ぎ、高性能で長寿命なSSBの実現に貢献することが期待されます。

【概要】

次世代型蓄電池の一つであるSSBを実用化する上で、充放電時に電極/固体電解質界面で生じる固体電解質の分解を抑制することが大きな課題となっています。この課題に対する対策として、電極/固体電解質界面への保護層(コート層)の導入が広く行われています。しかしながら、固体電解質を保護する上で、コート層にどのような特性?厚みが求められるのかは不明確でした。

今回、東北大学多元物質科学研究所 木村勇太助教らの研究グループは、固体内のイオンや電子伝導を記述できるWagner理論(2)を用いて固体電解質とコート層内のリチウム化学ポテンシャル(3)分布を理論的に計算することで、固体電解質を熱力学的に保護するために必要なコート層の特性や構造を定量的に明らかにしました。それにより、コート層の電子伝導率と厚みが、固体電解質保護効果を決める重要なパラメータであることを見出しました。さらに、コート層がその効果を発揮するためには、固体電解質の特性や電極電位なども考慮した総合的な最適化が必要であることを示し、それを可能にする計算フレームワークを開発しました。これにより、SSBの性能向上と実用化に向けた効率的なコート層設計が可能となりました。

本成果は、2024年7月20日に、材料科学分野の専門誌、Communications Materialsに掲載されました。

なお本研究は、東北大学多元物質科学研究所 木村勇太助教、中村崇司准教授(当時、現?名古屋大学未来材料?システム研究所 教授)、雨澤浩史教授、大学院工学研究科機械機能創成専攻の志水哲也大学院生(当時)、島根大学材料エネルギー学部 藤﨑貴也助教、名古屋大学大学院工学研究科 入山恭寿教授らの共同研究グループにより行われました。

図1. (a) 全固体リチウムイオン電池の固体電解質/電極界面の模式図、(b)全固体リチウムイオン電池の模式図、(c) 一次元全固体リチウムイオン電池モデルの模式図

【用語解説】

注1. 全固体リチウムイオン電池(SSB):電解質を可燃性の有機電解液から難燃性の固体電解質に置き変えたリチウムイオン電池。幅広く実用化している電解液を用いる電池に比べ、①発火のリスクが低い、②エネルギー密度が高い、③広い温度域で安定して性能を発揮できる、④劣化しにくく長寿命、などの利点が期待される。しかし、開発課題が多く、本格的な商用化には至っていない。

注2. Wagner理論:Carl Wilhelm Wagnerらによって提唱された( Phys. Chem., 21, 25, (1933))、固体電解質やコート層などの固体内のイオン伝導および電子伝導を記述する理論。固体中のイオンや電子欠陥の部分電流が、それらの電気化学ポテンシャルの勾配によって駆動されるとする現象論的な輸送方程式と、固体内の至る所でイオンや電子欠陥などの間に局所平衡が成立しているという仮定を基礎としている。

注3. リチウム化学ポテンシャル:電気的に中性なリチウムの粒子数の変化に伴って着目する系から放出/系に吸収されるエネルギーであり、ギブスの自由エネルギーなどの熱力学ポテンシャルのLiの粒子数に関する偏微分で定義される。リチウムの移動やリチウムが関わる化学反応の駆動力の一つとなる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 木村勇太
TEL: 022-217-5341
Email: yuta.kimura.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所
教授 雨澤浩史
TEL: 022-217-5340
Email: koji.amezawa.b3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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