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露頭に記録された地震のエネルギー ― 繰り返される地震による岩石の破壊と粉状化 ―

【本学研究者情報】

〇大学院環境科学研究科 名誉教授 土屋 範芳

【発表のポイント】

  • 美しい輝安鉱(Sb2S3)が産出したことで有名な愛媛県市之川鉱山周辺域の露頭で観察される岩石の破壊現象から地震活動を読み解いた。
  • ミクロ(顕微鏡スケール)からマクロ(露頭スケール)での、岩石の角レキ化―粉状化組織の統計解析ならびにフラクタル解析、さらにレキ岩の組織や鉱物組成の解析から地震活動が繰り返し生じたことを解明。
  • この岩石の角レキ化―粉状化は、古地震の痕跡であり、産状の詳細な検討から地震のエネルギーを求める手法の開発を提案。
  • 岩石を破壊する表面エネルギーを地震のマグニチュードに換算し、中央構造線の活動による地震のモーメントマグニチュードは8~8.3Mwと見積もられる。

【概要】

愛媛県市之川鉱山は、裂か充填型熱水アンチモン鉱床で、明治から昭和にかけて多くのアンチモンを産出しました。市之川鉱山産の輝安鉱 (Sb2S3)は、刀剣のような美しい産状なものが多く、特によく発達した巨晶が産出し、世界の著名な博物館に市之川鉱山産の輝安鉱が展示されています。この鉱床は、主として中央構造線の南側(西南日本外帯)に三波川変成岩をレキとする市之川レキ岩中の熱水脈として胚胎していますが、この市之川レキ岩の産状を詳細に観察し、レキの粒径分布等を統計学的、フラクタル幾何学的な解析を行った結果、このレキ岩は2つのプロセスによって形成したことがわかりました。最初にできたレキ岩Bx1は、ドライな環境下で、地震によるパルス状の表面エネルギーの伝搬によって岩石が角レキ化して形成され、その後、液状化現象により新たな角レキパイプBx2が形成され、そして輝安鉱はその後の鉱化作用により生じたと考えられます。Bx1は、岩石が粉々に砕けていますが、レキの一つ一つは回転しておらず、また異質レキ(他からもたらされたレキ)も含まれていないことから、その場にある岩石がいわば衝撃的に破壊されたことを示しています。一方、Bx2は、Bx1レキ岩にパイプ状に貫入し、多様なレキ種を含み、またレキの周辺の細粒部分(マトリックス)には、最大40%もの苦灰石(CaMg(CO3)2)が形成されています。これは、 Bx2形成時にCO2流体の流入があったことを示しています。

巨大断層(構造線)の周辺には、ダメージゾーンと呼ばれる岩石の強度が脆弱化したゾーンが生じると考えられてきましたが、その実際の状況は十分には明らかにされていませんでした。市之川レキ岩は中央構造線(MTL: Median Tectonic Line)から数十~数百m離れた位置に分布していますが、このレキ岩は、中央構造線の度重なる地震活動の記録をとどめています(図1)。レキの粒度分布の解析から、岩石の破壊に必要な表面エネルギーを、また苦灰石の累帯構造の解析から、この市之川レキ岩は、中央構造線の10-100回の地震によって形成され、そのモーメントマグニチュード(地震のエネルギーの大きさを示す指標)は、5.8~8.3Mwと推定されました。

本研究は、露頭に観察されるレキ岩の産状から巨大断層の活動による地震の痕跡とその地震の散逸エネルギーも見積もった新しい研究です。輝安鉱の巨晶産出地として世界的に有名な市之川鉱山が、地震に関する物質科学的な研究フィールドとしても高い価値をもつことがわかりました。

なお、この露頭が分布する市之川鉱山千荷(せんが)坑付近は、近年の豪雨の影響で立ち入りが制限されています。現場の指示に従ってください。

本成果は、5月27日(イギリス時間)にSpriger/ Nature社が発行する科学誌Scientific Reportsでonline 公表されました。

図1 市之川レキ岩は、特徴的な分布様式から地震によって生じたレキ岩であることを示している。a)市之川角レキ岩の露頭は、岩石の粉砕実験と似た産状を示す。 b) 複数の角レキ岩のパイプ(Bx-2)は、地震による液状化により生じた。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院環境科学研究科
教授 岡本 敦
TEL: 022-795-6334
Email:atsushi.okamoto.d4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院環境科学研究科
情報広報室
TEL: 022-752-2223
Email: kankyo.koho*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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