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抗炎症薬に似た分子の医薬応用可能性を検証 構造等価性に基づく新規医薬品開発への貢献に期待

【本学研究者情報】

大学院薬学研究科 合成制御化学分野
助教 長澤翔太

研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 楔型炭化水素クネアン(注1)のメタ置換ベンゼン(注2)との構造類似性に着目し、分子特性の改善を通して、より優れた医薬品の創生を可能にし得る生物学的等価体としての応用が可能か検証しました。
  • 抗炎症薬ケトプロフェンと構造の似た化合物をクネアンから合成し、その生物活性試験を行ったところ、ケトプロフェンの100分の1の生物的応答を有することを認めました。インシリコ解析(注3)によりその生物活性に対する理論的裏付けの獲得にも成功しました。
  • 低分子医薬品開発における新たな分子設計指針を示唆するものであり、創薬科学研究の進展への寄与が期待されます。

【概要】

 近年の創薬研究においては、より優れた低分子医薬品などの開発を可能にするために、特定の分子構造?官能基(注4)と構造的に類似している上に、同等の生物学的応答を有する構造単位(生物学的等価体)が注目されています。特に、医薬分子に遍在するベンゼン環の生物学的等価体として、ベンゼン環と同様に柔軟性の少ない三次元的構造を有する炭化水素類が提唱されています。

 東北大学大学院薬学研究科の長澤翔太 助教、岩渕好治 教授らの研究グループは、同研究科平澤典保教授の研究グループおよび筑波大学医学医療系広川貴次教授と共同で、立方体型炭化水素であるキュバン(注5)の構造異性体として知られる、楔型炭化水素であるクネアンのメタ置換ベンゼン生物学的等価体としての応用可能性を様々な側面から検証しました。具体的には、抗炎症薬ケトプロフェンのクネアンアナログの合成に成功し、その生物活性試験およびインシリコ解析により、クネアンの生物学的等価体としての妥当性を評価しました。その結果、100分の1程度ではあるものの所望の生物活性を維持することが分かりました。適切な対象医薬品および薬効を選定することで、クネアンが新たな生物学的等価体として利用できる可能性を示唆する結果です。

 本研究成果は、低分子医薬品開発における新たな分子設計指針を示唆するものであり、創薬科学研究の進展への寄与が期待されます。

 本研究成果は2024年1月12日、ヨーロッパ化学会の国際誌 Chemistry--A European Journal に掲載されました。

 

図1. ベンゼン環の生物学的等価体

【用語解説】

注1. クネアン:
分子式C8H8の炭化水素化合物の1つで、楔(くさび)のような形をしていることからその名がつけられた(ラテン語:楔 cuneus)。キュバン(注5)の構造異性体(分子式が同一だが構造が異なる)であり、キュバンに特定の金属触媒を作用させることでクネアンへの異性化が進行する。

注2. ベンゼン:
分子式C6H6の最も単純な芳香族炭化水素。所謂「亀の甲」の形状を有する分子。分子中の炭素-水素結合が異なる官能基で2箇所置換された化合物は、置換位置によってオルト、メタ、パラ置換ベンゼンと区別して呼ばれる。

注3. インシリコ:
化学薬品や細胞等を取り扱う実験とは異なり、コンピュータを用いた計算によるシミュレーション等により、結果を予測する実験手法。

注4. 官能基:
有機化合物に存在する特定の構造を有する原子団。有機化合物の性質を特徴づける。ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシ基(-COOH)、アミノ基(-NH2)など。

注5. キュバン:
分子式C8H8の炭化水素化合物の1つで、立方体(cube)の形を有する。1964年にシカゴ大学のPhilip E. Eaton教授により初めて合成された。近年では、ベンゼン環の生物学的等価体としての利用法が模索されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
助教 長澤翔太、教授 岩渕好治
TEL:022-795-6847, 6846
Email: shota.nagasawa.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
    y-iwabuchi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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