本文へ
ここから本文です

ナノメートルスケールの磁気渦「スキルミオン」の新たな特性を発見し制御技術を確立 ─革新的省エネデバイスの実現に期待─

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 助教 土肥昂尭
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 磁気スキルミオン(注1)と呼ばれるナノ(10億分の1)メートルスケールで形成される磁気渦は、室温無磁場下で安定に存在できることから、従来の電子素子に比べて極めて高密度で桁違いに消費電力の低い革新的情報処理技術への応用に向けた研究が進められています。
  • 磁気スキルミオンでは、コロイドのような一般的な粒子とは質的に異なるブラウン運動(注2)を示すことを観測。磁気渦のよじれ(トポロジー(注3))が拡散性に強く影響することを明らかにし、かつそれを制御する方法を確立しました。
  • 磁気スキルミオンの拡散運動を用いた革新的省エネデバイスの実現に向け、重要な知見となる成果です。

【概要】

社会がますますコンピューターに依存するにつれ、情報処理の高速化と素子のさらなる低消費電力化が求められています。近年、ナノメートルスケールで実現する磁気渦の一種である磁気スキルミオンが、高い安定性、電気的制御の容易性の観点から革新的情報処理技術への応用に向けた研究が進められています。磁気スキルミオンの運動は、その渦構造のトポロジーに強く影響されると予測されますが、ブラウン運動に代表されるような拡散運動におけるトポロジーの役割は、これまで明らかにされていませんでした。

今回、東北大学電気通信研究所の土肥昂尭助教、独ウプサラ大学のMarkus Wei?enhofer (マーカス ワイゼンホファ)研究員、独コンスタンツ大学のUlrich Nowak(ウリ ノワク)教授、独マインツ大学ヨハネスグーテンベルグ校のMathias Kl?ui(マティアス クラウィ)教授からなる日独共同研究チームは、逆向きの二つの磁気スキルミオンを人工的に結合させた反強磁性スキルミオン(注1, 図1b)を用いてスキルミオンの拡散運動を詳細に調べることで、一般的な粒子とは質的に全く異なるブラウン運動を示すことを発見しました。

その拡散性は、アインシュタインによるブラウン運動の記述で良く知られた拡散と摩擦の関係に加え、トポロジーも密接に関連していることを実験及び理論から明らかにしました。更に人工反強磁性結合したスキルミオンでは、トポロジーに起因する力を通して、この拡散性を制御できることを実証しました。

今回得られた知見を土台にして、スキルミオンを用いる究極的な省エネデバイスの実現に向けた研究開発が進展することが期待されます。

本研究成果は、2023年9月11日(英国時間)に学術誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1. a)磁気スキルミオンとb)人工反強磁性スキルミオン。人工反強磁性スキルミオンでは、お互い逆方向に結合しているため、それらの磁化の大きさ(矢印の大きさ)を制御することによって正味の渦の強さを制御できる。

【用語解説】

注1. 磁気スキルミオン
磁性体中で実現するナノスケールで安定可能な磁気渦(図1 a)。磁気構造の立体角でトポロジーが規定され、磁気スキルミオンは有限の値(1)を持つ。このためナノスケールにおいてさえも極めて安定であり、不純物等の外乱に対して堅牢な構造であると考えられている。図1 b)で示すような、二つの磁気スキルミオンが逆方向に結合したスキルミオンを人工反強磁性結合スキルミオンと呼ぶ。逆方向に結合しているため、お互いの磁化強さの比によって、正味の渦の強さを制御できる。

注2. ドリフト運動、拡散運動(ブラウン運動)
物体の運動は、二つに大別される。一つは、指向性を持つ外力によって駆動されるドリフト運動。もう一つは、熱揺らぎのような時間的、方向的なランダム性を持つ外力による確率的な運動である拡散運動である。拡散運動の代表例として、粒子のブラウン運動が良く知られており、アインシュタインによって拡散(揺動)と摩擦(散逸)の関係が明らかにされた。揺動散逸定理の一種として良く知られている。

注3. トポロジー
何らかの系のカタチを連続変形の観点から分類する幾何学。良く知られた例としてドーナツとコップの例が挙げられる。ドーナツとコップは同じ穴の数を有しており、連続変形によってお互いに移ることができるが、球のような穴の数が異なる物体には移り変わることができない。ここで、穴の数はトポロジカル数と呼ばれ、この数が異なる系には、移り変わることができないため、ある種の安定性を意味している。磁性体では、磁気モーメント(図1におけるそれぞれの矢印)が球を何回覆うかという指標がトポロジカル数であり、磁気スキルミオンは1という有限の値をとる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
助教 土肥 昂尭
TEL: 022-217-5555
E-mail: tdohi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs07 sdgs09sdgs17

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ