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反強磁性体におけるトポロジカルホール効果の実証に成功 ―磁気情報の新しい読み出し手法としての活用に期待―

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 准教授 鈴木通人
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • スピンの立体的な配列に起因して、電子の進行方向が曲がる現象「トポロジカルホール効果」を、磁化を持たない反強磁性体において実証することに成功しました。
  • 従来、ホール効果の発現には磁場や磁化が必要であると考えられていましたが、これらを必要とせずにホール効果を生み出せることが明らかになりました。
  • 磁化を持たない反強磁性体における磁気情報の読み出し手法として利用できるため、反強磁性体をベースにした新しい磁気記憶素子の開発につながることが期待されます。

【概要】

東京大学大学院工学系研究科の高木寛貴 大学院生(研究当時)、高木里奈 助教(研究当時)、関真一郎 准教授らの研究グループは、同物性研究所の中島多朗 准教授、同先端科学技術研究センターの有田亮太郎 教授らとの共同研究を通じて、スピン(注1)の立体的な配列に起因して電子の進行方向が曲げられる現象「トポロジカルホール効果」を、磁化(注2)を持たない反強磁性体(注3)において実証することに成功しました。ホール効果(注4)は、地磁気の検出や、強磁性体における磁気情報の読み出しなどに広く活用されている現象で、通常は磁場や磁化に比例して生じることが知られています。一方、本研究で注目した反強磁性体においては、四面体状のスピン配列の中を運動する電子が「曲がった空間」に由来した仮想磁場(注5)を感じることで、強磁性体に匹敵する巨大なホール効果が発現することが明らかになりました(図1)。上記の現象は、磁化を持たない反強磁性体における磁気情報の新たな読み出し原理として利用できることが期待され、反強磁性体をベースにした高速?高密度な新しい磁気情報素子の開発につながることが期待されます。

本研究成果は2023年4月20日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature Physics」オンライン版に掲載されました。

図1:磁化を持つ強磁性体における通常のホール効果と、磁化を持たない反強磁性体におけるトポロジカルホール効果。前者では磁化が、後者では立体的なスピン配列が誘起する仮想磁場が、それぞれ電子(灰色の円)の進行方向を曲げる原因となる。赤い矢印はスピンの向きを表している。

【用語解説】

(注1)スピン
エレクトロニクスの主役である電子は、電荷とスピンの2つの自由度を持つ粒子であることが知られています。このうち、スピンの自由度は、電子の自転が生み出す角運動量に由来しています。スピンは原子サイズの棒磁石のような性質を持っており、磁性体の中ではこのスピンが一定の規則に従って整列した状態が実現しています。

(注2)磁化
スピンは「磁気モーメント」と呼ばれるベクトル量によって特徴付けられ、単位体積あたりの磁気モーメントは「磁化」と呼ばれます。これは磁性体内部におけるスピンの平均値に相当します。

(注3)反強磁性体
私たちの日常で利用されている磁石は「強磁性体」と呼ばれ、その内部ではスピンが向きを揃えて平行に整列しており、大きな磁化が生じています。一方、スピンが反平行ないし四面体状に整列している場合には、磁化は打ち消し合ってゼロとなります。後者のような、磁化がゼロのスピン配列をもつ物質を「反強磁性体」と呼びます。

(注4)ホール効果
ホール効果とは、電子の進行方向が何らかの理由によって曲がる現象のことを指しています。通常、電子は電場に対して真っ直ぐに運動しますが、磁場や磁化が存在する環境下では、電場と直交した方向に電子を動かそうとする力が生じ、これがホール効果の起源となることが知られています。

(注5)仮想磁場
非共面なスピン配列の下で電子が運動する際に、電子が感じる仮想的な磁場のこと。量子力学的な効果に起因しており、現実の磁場をかけていないにも関わらず、あたかも磁場が存在しているかのように電子が振る舞うことから、このような名称で呼ばれています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 
准教授 鈴木 通人(すずき みちと)
TEL:022-215-2512
E-mail:mts*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
E-mail:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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