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一瞬しか発生しない世界最強1000テスラ級超強磁場中で結晶の「のびちぢみ」の計測に成功 ? 酸化物で新たな「超」状態変化の兆候を発見 ?

【本学研究者情報】

大学院理学研究科物理学専攻
准教授 那須 譲治
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 瞬間的にしか発生しない世界最強1000テスラ磁場発生装置に独自開発の100メガヘルツ超高速ひずみ計測を導入し、結晶の「のびちぢみ」を計測することに成功した
  • コバルト酸化物中で磁気励起子の超流動状態の兆候を発見した
  • スピン超流動を用いたスピントロニクス技術の進展や量子コンピュータなどへの応用が期待される

【概要】

電気通信大学大学院 情報理工学研究科の池田暁彦助教と東京大学物性研究所の松田康弘教授ら、茨城工業高等専門学校の佐藤桂輔准教授、および東北大学大学院理学研究科の那須譲治准教授らによる研究グループは、室内発生世界最強の1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置[1] (図1)を使い、600テスラの超強磁場下で結晶の「のびちぢみ」の瞬間的な計測に成功し、遷移金属酸化物であるコバルト酸化物(LaCoO3)中の新しい磁気(スピン)超流動状態[2]の兆候を見いだしました。本成果はスピン超流動を用いたデバイス開発につながり、スピントロニクス技術や量子コンピュータへの応用が期待されます。

遷移金属酸化物は電子の自由度である電荷やスピンなどが強く相関し合うことで、多彩な秩序化が起こることから大変注目されています。特に、LaCoO3中には「磁気励起子[3]」というユニークな自由度がありますが、この磁気励起子の粒子的かつ波動的なふるまいには謎が多く、固体物理における最大の難問の一つとされ、60年以上に及び研究が続けられています。さらに、LaCoO31000テスラ級の非常に強い磁場中において、磁気励起子の結晶化やボーズ?アインシュタイン凝縮[4]などの新たな現象が起こると予想されていました。しかしながら、このような強磁場は世界最強の磁場発生装置を利用しても10マイクロ秒程度(1マイクロ秒は100万分の1秒)の一瞬しか発生できません。さらにこの極限環境において、一瞬かつ一発で物性を計測できる技術を必要とするために、これまで研究されてきませんでした。

今回、池田助教らの研究グループは、1000テスラ級電磁濃縮超磁場発生装置に独自開発の超高速ひずみ計測技術を導入することで、瞬間的に発生した超強磁場中でLaCoO3結晶の「のびちぢみ」を一瞬かつ一発で計測することに成功しました。これにより、LaCoO3における磁気励起子の超流動状態の兆候を600テスラの超強磁場下で初めて確認することができました。本成果はLaCoO3の基本的な性質を明らかにするもので、スピントロニクス技術におけるスピン流生成や量子コンピュータなどへの応用が見込まれます。また、超高速ひずみ計測法は超伝導体から金属まであらゆる固体に適用できます。超強磁場の発生と計測技術を併用することで、今後も1000テスラ級の超強磁場において新たな電子状態や相転移などが発見できると期待されます。

本成果はオープンアクセスの国際学術誌Nature Communications44日に掲載されました。

図1 1000テスラ発生に用いる新型電磁濃縮法装置の概念図。まず5メガジュールのコンデンサ電源に電気エネルギーを蓄積します。つぎに電磁濃縮コイルに放電します。電磁濃縮コイルは受け取ったエネルギーを利用して、金属ライナー(筒)を高速収縮します。金属ライナー中の初期磁束(3テスラ程度)は急速に高密度化し1000テスラ級の超強磁場が発生します。超強磁場発生直後にコイルは大爆発します。この爆発は金属ライナーを収縮するさせる際の反作用と、発生した超強磁場自体の反発力によるものです。

【用語解説】

[1] 室内発生世界最強の1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置:
東京大学物性研究所で2018年に室内発生世界最強の1200テスラを報告した新型の電磁濃縮法[5]を用いた超強磁場発生装置

[2] 磁気(スピン)超流動状態:
固体中の相互作用する磁気的粒子がボーズ?アインシュタイン凝縮を起こした状態で、固体中の磁気粒子を摩擦なく輸送できると期待される

[3] 磁気励起子:
コバルト酸化物のコバルトイオン中の電子が励起されて磁気を帯びた状態

[4] ボーズ?アインシュタイン凝縮:
巨視的な数のボーズ?アインシュタイン粒子(物質を構成する粒子は量子力学によってフェルミ?ディラック粒子とボーズ?アインシュタイン粒子に大別される)が同じ最低エネルギー状態に落ち込み、量子力学的な巨視的状態を発現すること

[5]電磁濃縮法:
電磁力で金属筒を急速に収縮させ、金属筒内の磁束を高密度に束ねることで、中心部分に磁束の高密度状態(超強磁場)を生み出す技術(図1も参照)

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 大学院理学研究科物理学専攻
准教授 那須譲治
Tel:022-795-6436  
E-Mail:nasu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
Tel: 022-795-6708
E-Mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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