本文へ
ここから本文です

軟体動物で機能する強力なプロモーターの世界初の発見 -軟体動物の遺伝子を機能解析できる基盤技術に目処-

【本学研究者情報】

大学院農学研究科 助教 長澤一衛
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • これまで見つかっていなかった、軟体動物で機能する強力なプロモーター※1 の同定に世界で初めて成功した。
  • このプロモーターは二枚貝に感染するカキヘルペスウイルス1※2 DNA配列から単離され、OsHV-1プロモーターと命名された。
  • 本プロモーターを利用することで、二枚貝をはじめとする軟体動物において、外来遺伝子を導入した遺伝子組換え動物の作製や、過剰発現系を用いた遺伝子の機能解析が可能になると期待される。

【概要】

二枚貝をはじめとする水生無脊椎動物は、再生、適応、生殖、老化等において特筆すべき生物学的特徴を示し、その基盤となる遺伝子機能を解明することには高い学術的意義があります。これまでマウスやゼブラフィッシュ等のモデル動物における遺伝子の機能解析では、培養細胞や個体に研究対象となる標的遺伝子を導入し、過剰に発現させた表現型からその遺伝子機能を推定してきました(過剰発現系を用いた表現型解析)。この遺伝子の過剰発現には、プロモーターと呼ばれるDNA配列が不可欠です。しかし、水生無脊椎動物で十分に機能するものはこれまでありませんでした。この有効なプロモーターが無いことが技術的なボトルネックとなり、軟体動物における遺伝子の機能解析を妨げている状況にありました。

東北大学大学院 農学研究科 水圏動物生理学分野のYoon Jeongwoong (ユン ジョンウン)大学院生、横井勇人(よこい はやと)助教、尾定誠(おさだ まこと)教授、長澤一衛(ながさわ かずえ)助教のグループは、軟体動物で機能する強力なプロモーターを同定することに世界で初めて成功しました。

本研究グループは、カキヘルペスウイルス1型(Ostreid herpesvirus 1、OsHV-1)由来のPoshv117というDNA配列が、二枚貝を含む様々な動物種の細胞で強力なプロモーター活性を示すことを発見し、OsHV-1プロモーターと命名しました(図1参照)。

本成果は、2022年11月2日に国際科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)オンライン版で掲載されました。

本研究成果は主に、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究C「貝類造血機構の解明を目指したシングルセル解析と遺伝子改変技術の開発」および基盤研究A「二枚貝の脳ホルモンが制御する性分化と性成熟-その分子機構と種苗生産への展開-」により得られました。なお本成果は「新規プロモーター」として国際特許出願しています(出願番号: PCT/JP2022/030912, 出願日: 2022/08/15)。

図1. 本研究の概要  本研究ではカキヘルペスウイルス1型が有する全136遺伝子の中から、宿主への感染初期に高発現するORF117遺伝子に注目し、その上流領域が軟体動物の細胞で強いプロモーター活性を示すことを発見してOsHV-1プロモーターと命名した。さらにOsHV-1プロモーターによりGFPを発現するベクターをエレクトロポレーション法で遺伝子導入することで、ホタテガイ心筋細胞にGFPを高発現させることに世界で初めて成功した。

【用語解説】

注1)プロモーター
プロモーターとは、ゲノムDNA中に存在する遺伝子の上流領域の一部を指す。この領域に基本転写因子が結合することで、下流の遺伝子の転写が始まる。

注2)カキヘルペスウイルス1型
カキのヘルペスウイルス1型(Ostreid herpesvirus-1; OsHV-1)は、マガキなど二枚貝の幼生や稚貝に感染し、大量死に関与するDNAウイルス。OsHV-1は世界各地に分布しており、国や地域により遺伝子にわずかな変異がある。1990年代からフランスをはじめとするヨーロッパ沿岸で確認され、日本国内でも2010年代からカキ養殖がおこなわれている地域での感染が確認されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院農学研究科
水圏動物生理学分野
長澤 一衛(ナガサワ カズエ)
電話:022-757-4133
FAX:022-757-4132
E-mail:kazue.nagasawa.d6*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科 総務係
TEL:022-757-4003
FAX:022-757-4020
Email:agr-syom*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs09 sdgs14

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ