本文へ
ここから本文です

ドレス現象*によるNK細胞の細胞死機構の発見

ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍免疫、感染免疫などにおいて中心的な役割を担うキラー細胞であることが知られています。感染や腫瘍局所ではNK細胞が、増殖し活性化して標的細胞を排除します。しかしその一方で、増殖した活性化NK細胞はどのようにして減少し、正常状態に戻るのかについては知られていませんでした。

今回、東北大学加齢医学研究所の中村恭平研究員、小笠原康悦教授(生体防御学分野)の研究グループは、医学系研究科張替秀郎教授、石井智徳准教授(血液?免疫病学分野)らと共同で、ドレス現象によるNK細胞の細胞死機構を発見しました。NK細胞は活性化して腫瘍組織に入り込み、癌細胞上にあるNKG2DL分子を目印に癌細胞を攻撃しますが、その際、癌細胞からNKG2DLという分子を獲得し変化してしまいます。そして、NKG2DLを獲得したNK細胞(NKG2DL dressed-NK cell)は、今度は活性化NK細胞の標的となって急速なNK細胞死がおこることが明らかとなりました。このことは、癌の免疫療法においてNK細胞を活性化して増殖させても、それのみでは癌細胞によるNK細胞のドレス現象によりNK細胞は減少し効果が減弱してしまうことを意味します。これまで癌の免疫療法で効果をあげることができなかった症例では、急速なNK細 胞死が観察されており、我々の発見が一つの原因である可能性が考えられました。このドレス現象をコントロールする方法が見つかれば、より効果的な腫瘍免疫療法の開発につながると期待されます。

この成果は米国科学アカデミー紀要での論文掲載に先立ち、5月20日(米国東部時間)に速報(Early Edition)として電子版で公開されました。

*ドレス現象:ドレスを着るように後天的に変化する細胞の現象。今回は、NK細胞が癌細胞のNKG2DL分子を膜ごと獲得し後天的に変化してしまう現象。筆者らの造語

 

<論文名>

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America「Fratricide of natural killer cells dressed with tumor-derived NKG2D ligand」
(日本語訳:がん細胞由来のNKG2Dリガンドを身にまとったNK細胞の細胞死)
By Kyohei Nakamura、 Masafumi Nakayama、 Mitsuko Kawano、 Ryo Amagai、Tomonori Ishii、 Hideo Harigae、and Kouetsu Ogasawara

 

<本研究テーマに対する研究支援は以下の各所から得られた>

1.厚生労働省 厚生労働科学研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防?治療研究事業(代表研究者:小笠原康悦)平成22年度~

2.文部科学省科学研究費補助金:基盤研究(B)(代表者:小笠原康悦)

3.文部科学省科学研究費補助金:挑戦的萌芽研究(代表者:小笠原康悦、分担研究者:石井智徳)

 

<用語解説>

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)
ナチュラルキラー(NK)細胞は、癌細胞や感染細胞の排除にかかわるキラー細胞として知られている。この細胞傷害活性とサイトカイン(免疫細胞が出す液性因子)産生がNK細胞の主たる機能として知られている。

腫瘍細胞(癌細胞)
DNA損傷や、発癌物質、酸化ストレスなどによって、異常細胞が変化し、腫瘍となったもの。

NKG2DL分子(NKG2D ligand分子)
DNA損傷や、発癌物質、酸化ストレスなどによって、異常細胞となるとNKG2DLを発現することが多い。そのため、NKG2DLは、免疫細胞に自身の異常を伝える”Danger signal(危険シグナル)”であると考えられている。NK細胞は、このNKG2DLを目印に異常細胞を殺し排除する。

癌免疫療法
NK細胞やT細胞を活性化し、免疫機能を利用して癌細胞を排除する治療法。

 

詳細(加齢医学研究所ウェブサイト)

 

[本件問合せ先]
小笠原 康悦(おがさわら こうえつ)
東北大学加齢医学研究所 生体防御学分野 教授
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町4-1
TEL: 022-717-8579
E-mail:imbio1*idac.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ